We the Media の日本語訳読みました
ダン・ギルモアの力作「We the Media」の邦訳「ブログ - 世界を変える個人メディア」を朝日新聞社からいただきました。ありがとうございます。ちゃんと読みました。充実した内容(それもブログなどの話ばっかりで、ちょっとマニアックなのに...)、訳も丁寧で、この本が日本で出版されたことは、とてもよいことだと、強く感じました。彼の国でも有名なジャーナリストでブロガーでもあるダン・ギルモアの圧倒的な取材力に支えられた豊富な情報により、この5年間 (1999-2004) のブログの歴史が網羅されています。ブログってなんだろう、といまだに困っている人は、この本を読んでみましょう。きっと誰よりも詳しくなることができます。わたしがブログに関わるようになったのは2002年頃からですが、ちょっと懐しくもなるような記述をそこかしこに見つけてしまいました。
しかし、この本はブログの歴史書でも解説書でもありません。ブログだけにとどまらず、Wikiなども含めて、普通の人々が発信する情報が、インターネットという新しいテクノロジーの力を借りて、メディアとしての価値を発揮していく様を実例を示しながら描いています。「ブログ・ジャーナリズム」という言葉は日本にも届いていますが、実態として何が起きているのか、これからどうなるのか (もしくは、なってほしいのか) ということが書かれており、流行に乗ってブログを導入したけど、これからどうしよう、というブログの運営者の皆様にも読んで損のない一冊だと思います。
前置きはこれくらいにして、日本語に訳されたこの本を読んで改めて思った感想を書いてみたいと思います。
米国では、ジャーナリズムへの影響を発揮しているブログを代表とする個人発信メディアですが、日本ではそれほどの力を持つには至っていません。本書を読んでそのままを日本で語ると、個人的には若干残念ではあるけれど、ちょっと「うく」状況が続いていると思います。ネットの世界では、すでに、情報を鵜呑みにせず、自分で検証した上で受けいれる、いわばリスクマネージメントは自分で行うということについて、以前よりも積極的な人が増えていて、この傾向はもう変わらないと確信していますが、まだまだ一般には、権威付けられた情報を安易に受けいれがちなこの状況を変えるには、ひとつふたつ、大きな事件が必要なのかもしれません。
この本の原題は「We the Media - Grassroots Journalism by the People, for the People」すなわち「われわれのメディア、人民による、人民のための草の根ジャーナリズム」って感じなニュアンスです。本文の内容もブログで世界が変わる、ってことではなく、インターネットの浸透が後押しして生まれた、新しいメディアによる個人の情報発信が、新しいメディアとして力を発揮していくことについて、先例を示しながら解説しています。ここで重要なポイントは、個人が自発的に行動、発言していくことで、それが広がることで、マスメディアにも影響するような、大きな力に変わるということです。既存のメディアに誘発されることはあっても、誘導されるばかりでは、この本で描かれるような世界にはなりえないことは、肝に命じておく必要があるでしょう。
情報の流通コストがどんどん低下している今の状況では、この本に書かれている傾向はとどまることなく、どんどん加速する一方です。なんだかんだいっても、日本でも情報の透明性は10年前より格段に高くなり、例えば官庁や国会の議事録などは簡単に調べることができるようになっていて、これらの情報をベースに、個人が分析を加えてジャーナリスト的な活動をすることも、不可能ではなくなってきました。日本でも、次のステップに進む準備は整いつつあり、そのような動きが起きてくることを期待しています。すでに起きているではないか? という方には、ぜひそのまま、後ろを振りかえることなく、突っ走ってください。はやり言葉的にいうと、「Journalism 2.0」でしょうか。
ところで、大したことではありませんが、この邦訳本をいただいて、二つほど気付いたことがあります。米国ではオライリーが出版しているのですが、日本では朝日新聞社が出版しています。しかし、帯には「ホリエモンもお勧め!」とあり、その内容は「脱構築せよ!マスメディア・ジャーナリズム」なのです。ホリエモンの次のターゲットは朝日新聞社で、買収して「脱構築」してくれるのでしょうか。ぜひ、トライしていただきたいと思います。
また、朝日新聞社自身も、説明するまでもなく、日本を代表する報道機関でありマスメディアです。この本で取り上げているテーマ、個人による創発的(エマージェント)なメディアの興隆を加速させるべく出版してしまう度量には、正直とても感心しています。これを機会に、ぜひ、アサヒ・コム にもトラックバックやコメント機能を追加して、脱構築を始めていただきたいところです。お手伝いしますので、必要なら、ぜひお申しつけください。目指せ asahi.com 2.0!
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