医薬品のネット販売規制について
改正薬事法の施行で、頭痛薬や風邪薬などのいわゆる大衆薬がネットで買えなくなるって、みなさん、知っていました? 6月に施行される省令で、いわゆる医薬品のほとんどは、資格のある対面販売でしか購入できなくなります。ネットだけでなく、通信販売全般が規制の対象となります。この規制、ちょっとおかしいのではないかと思うので、思ったところを書いてみたいと思います。
薬事法自体の改正は結構前の話なのですが、副作用があったり、誤って使うと問題もおきる医薬品をどのように販売すれば、安全が保たれるのかが、審議会などで話し合われて、省令として公布されており、6月に施行される予定なのです。
通例、審議会や検討部会が開催され、業界や各界の有識者とよばれる方々が参加し、議論を重ねて、どのような省令になるのか決められています。どうやって有識者が選ばれているのかはともかくとして、審議会や検討部会の議論は議事録として、基本的にすべてオープンにされています。そして省令として決めるまえに、パブリックコメント、通称パブコメという手順を通ります。省令案を公開し、ひろく一般から意見を募り、調整、修正をした上で最終的な省令として制定されるようになっています。
今回、医薬品の販売の規制方法についての省令もパブリックコメントを経ています。寄せられたパブリックコメントは、2000件を越えていて、かつ、大半が、対人販売のみに限定されてしまい、ネット販売がなくなってしまうと困る、というものでした。これらの意見は丁重に無視されたのか、反映されずに省令が制定されて、ネットで買えなくなる、通信販売ができなくなるという騒ぎがおきています。なんのためにパブリックコメント集めたんでしょうね。
この問題に対して、楽天やヤフーが、この省令に反対する署名を募り、100万人以上が署名が寄せられました。もちろん、この署名は関係各位に届けられて、結果として、厚生労働省の舛添大臣が、急遽、再検討のための検討会を開くよう指示し、今年の2月からこれまでに6回の会議が開かれています。そして、5/12 には省令の改正案が公開されパブリックコメントが募集されています。今回、6月の施行に間に合わせるために1週間という短い期間での募集となっていますが、ちゃんと募集されています。改正案の内容は「いままでに購入した薬と同じ薬を同じ薬局から買うなら、顧客が同意すれば通信販売でよい」「離島への通信販売は行っていい」という内容でした。いわゆるネット販売は実質的に禁止されたままです。で、どうしてこの省令の改正案になったのか、というのは納得できるものではないと感じます。
検討会の議論は議事録として公開されています。検討会の第一回、舛添大臣は冒頭に次のように述べています。
09/02/24 第1回医薬品新販売制度の円滑施行に関する検討会議事録 (厚生労働省のサイト)
皆さん、おはようございます。この会を開催するに当たりまして、一言ご挨拶を申し上げます。
本当にお忙しい中、皆さん方にお集まりいただきましてありがとうございます。ご承知のように、薬についての安全面を強化したいということで薬事法を改正いたしましたけれども、この6月から新たな医薬品販売制度を実施することになります。この新たな販売制度に関して昨年実施したパブリックコメント等において、薬害の被害者、消費者団体、インターネットのユーザー、伝統的な薬の利用者等さまざまな方からのご意見も賜っております。
医薬品の販売に関しては、国民の健康を守るという観点から、安全対策をしっかりやる必要があるということ、しかも、この安全対策というのは国の責務であるということをまず申し上げておきたいと思います。そういう意味で、専門家がきちんと情報提供をして安全面を確保したいと思っております。
他方、国民の健康を守るということを考えたときに、例えばへき地に住んでいようが、どういう身体の状況であろうが、すべての国民が平等に必要な医薬品を入手できる、そういう環境づくりをするということも、これまた国民に対しての国の責務であると考えております。その観点で、例えば薬局や店舗などで医薬品を購入することが困難な方、現にインターネットなどによる購入に依存している方々もおられるわけですから、そういう方々の声もまた反映させなければいけない。そういう意味での国民的な議論が必要だと考えたわけであります。安全確保ということが第1であるということを強調しておきたいと思います。そこで、この会を早速始めて、議論を開始したいと思います。
すぐ議事を始めるために、座長につきましては、これまで薬事法改正の議論にご尽力いただきました井村伸正北里大学名誉教授にお願いをしておりますので、よろしくお願い申し上げます。すべての国民に安全に医薬品をお届けするにはどうすればいいのだろうか、これが最大のテーマでございます。そして、本当に忌憚のないご意見を皆さんにいただいて、この場が全国民的な議論を喚起する中心になって、そのことによって私が申し上げた、すべての国民が安全に医薬品の提供を受けることができる。そして、国はきちんと安全対策をやる、こういうことが実現できる1つのよすがといたしたいと思いますので、どうか皆さんよろしくお願い申し上げます。
第一回からどんどん議事録を読み込んでいくとわかるのは、今回の省令改正案に検討会の委員の意見が反映されていないことです。後半の議事録を読んでいると、検討会の外で省令の改正案が作られ、その改正案は、今回の通信販売に賛成、反対、両方の意見を持つ委員が不満足であるにもかかわらず公開され、パブリックコメントの募集が始まったようにも読めます。賛成にせよ反対にせよ、委員の意見が反映されていないのはいいのか、忌憚のない意見はとびかったようですが、結局、まとまらなかっただけなのでしょうか。そもそもまとめる気はなかったのか、まさかね。
どうしてまとまらなかったのでしょう。もしかしたら、いまだ検討会の委員の皆さんにインターネットへの偏見もあるのかもしれませんし、ネットがよくわからず不安に思っているだけかもしれません。しかし、国は自ら電子政府にも取り組んでいますし、情報公開も積極的に実施しています。IT技術、ネットの技術を使ってさまざまな利便提供が可能であることは、国も認めるところでしょう。それとも、ネットでは正しく情報を提供できないとでもいうのでしょうか。ネットでは、個人から正しく情報を提供されないというのでしょうか。ネットが危険なのではなくて、使い方の問題でしょう。適切な技術を利用し、適切な方法を整備すれば、対人販売と同程度、もしくはそれ以上の安全性に加えて利便性を担保することは可能だと思います。そういう先進的なとりくみこそ、厚生労働省も支援していただきたいです。もちろん、そう思うのはわたし個人の考え、意見であって、委員のみなさんにはそれぞれいろんな意見があるわけで、いろんな考えをもった有識者が集まることで、よりよい方向にいけばいいなと願っています。
しかし、6回も議論して、だれも賛成していないように見える省令案がでてくるってどういうことなんでしょうね。6月という期限を前に時間切れを気にしただけなのかもしれませんが、時間切れなら仕方がない、という意見も飛びだしているなか、どうしてこういう省令案ができてしまうんでしょう。大臣は「すべての国民が安全に医薬品の提供を受けることができる。そして、国はきちんと安全対策をやる」という話にあっていないんじゃないですかね。これは納得いきません。むー。いいのか、舛添大臣。
また、薬が手に入らないで苦しむのは薬害ではないから関係ない、なんてことは考えていないと思いますが、ネット販売、通信販売が禁止されると、そんなことも冗談ではなくなるかもしれません。薬局のない過疎地域、そうでなくても薬局にいけない事情のある人はどうするんでしょうね。対面販売を強制しても、それが適価に行われなければ、高くて薬が買えずに諦める人もでてくるかもしれません。そんなのもよくないですね。
技術屋として教育を受けた者のひとりとして、こういう課題は技術の力で解決できないものか考えてしまいます。本人確認であったり、健康状態の把握であったり、いろいろ困難はあるかと思いますが、「安全」という部分をきちんとうまく定義して、自由度を設定すれば、新しい技術を考えるチャンス、ひいては新しいビジネスのチャンスになるのではないでしょうか。対面販売なら安全といえるだろう、と決めることができたのですから、その安全を担保したまま、より利便性を追求することを柔軟に考える余地は十分にあるはずです。不況対策としても有効かもしれませんよ。
と、大臣の挨拶にあった国民的な議論を喚起するべくいろいろ考えてみました。委員の意見も反映されていない省令案へのパブリックコメントですから、それなりに影響力があるだろうと期待し、注視して見ていきたいと思います。はい。
参考リンク
・意見募集中案件詳細
・日本オンラインドラッグ協会の特設ページ: ヘンテコな規制をかえよう!
・ CNet Japan 特設ページ:医薬品ネット販売規制の現実
・CNet Japan: 医薬品のネット販売規制で世論巻き起こるか--ターニングポイントの検討会議事録
・音楽配信メモ: 「医薬品新販売制度の円滑施行に関する検討会」を傍聴してきました
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